豊田章男氏 米国バブソン大学卒業式スピーチ 「さあ、自分だけのドーナツを見つけよう」全文

      2020/02/04    - コミュニケーション能力向上のツボ, コラム


豊田章男氏が2019年に米国バブソン大学卒業式スピーチを行い大好評だったと聞いた
タイトルは「さあ、自分だけのドーナツを見つけよう」
これだけ聞くとあまりぴんとこないかもしれない
ただ、聞いていただければジョークと経験、そしてメッセージ性が伝わり15分があっという間に感じます
また原稿を見ずに目を見て話す。そして英語なので分かりづらいかもしれないが、文章の区切り方や間の取り方も含めて絶妙でした
個人的に「すごい」と思った観点を述べてみることにします
また、色々と学ぶ要素のあるこのスピーチとその全文は以下に日本語で示してみました
是非、中身も見ながら皆さんも自分のスピーチの組み立ての参考にしてみてください

 

豊田章男氏が述べたプレゼンから感じたポイント

①ジョークとメッセージのバランス

あまり日本でのスピーチでは途中で拍手が起こることは少ないかもしれない。なので、これは海外だからという要素は十分にあり得る。それでも、約15分のプレゼン中に16回の拍手と笑いが起こっている(小さいのを含めるとさらに多い)

プレゼンの中で何度も笑いを取っています。しかもすべて計算された笑いです。その中で、ラストの数分は真剣に聞かせます。笑いはなく強いメッセージです

緊張と緩和のバランスを上手く計算し、文章が練られています。単純な真面目なメッセージだけだと飽きが起こる可能性があります。また、「豊田章男だからできるジョーク」を入れている点も素晴らしいと感じました

 

②同じ『ラベル』による仲間意識

プレゼン中には合計で『11回』はバブソンという単語を使っています。もちろんバブソン大学でのスピーチなので当たり前と言えば当たり前なのですが、豊田氏自身卒業生として、同じ場所で学んだ一人の先輩としてエールを送っています

過去に在学した目の前の人が

・世界で活躍している企業のTOPである

・大学中にどのように過ごして、卒業後どのような想いを持って臨んだか

を語ってくれています

赤の他人ではなく、同じ大学の先輩というラベルがつくだけで共感や仲間意識が生まれているように伝わりました

 

③弱みも見せる

プレゼン中で以下のように語っているシーンがあります

「だからバブソンで勉強していた時の私は、一言でいうと、「つまらない人間」でした。」

「私が社長になってすぐに、景気が後退し、東日本大震災も経験しました。

リコール問題では、ワシントンの公聴会で証言しなければなりませんでした。」

と言ったような、決してパーフェクトではない人生だよということを伝え、人間味も表現しています

弱い部分を見せることによって、自己開示をしてくれているという要素が高まり、相手への信頼感も高まります

これは通常のプレゼンでも同じで、「偉い」「威厳」だけで権威を伝えるプレゼンは一瞬しか響かない可能性もあります

なので、こうした弱さを見せるだけでも伝わり方は変わるでしょう

 

④絶妙な言い切りと目線

すごいな。と感じたのは、一切目線を落とさずに語りかけていたこと

そして、絶妙な間と言い切り

文章として「、」で繋げて語るところは数えるくらい少ないという印象でした

英語だからという部分もあるかもしれませんが、自分のペースだけではなく、相手の呼吸も感じながらプレゼンされている部分も見て、中身も去ることながらやはりスキルも重要だなと強く思います

 

個人的には、自分も相手も信じるという強いメッセージ性を感じました

終盤の強いメッセージが個人的には大好きです

皆さんは「常に何か新しいことを学ばなければならない」ということです。

何歳になっても同じです。

誰もが生徒になることはできます。

生徒というのは、いつだって最高の仕事です。

生徒という存在を卒業する、学生に対してのメッセージとしては特別かつ、考えられた言葉だなと思いました

 

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[豊田章男氏]

 

ソレンソン名誉会長、ご紹介ありがとうございます。

バブソン大学のみなさま、ご招待に感謝します。

ヒーリー学長

カポッジ会長

ライス学長補佐

ローレグ学部長

運営委員会の皆さま

 

両親、配偶者の方々、友人

そして卒業生の皆さま

バブソン大学の100周年記念で、こうしてお話する機会をいただき
とても栄光に思っております。

まずは、今年の卒業生にお祝いの言葉を述べさせてください。

(拍手)

 

大切なことだけ言います。

 

皆さんの中には、卒業後にどんな仕事につけるか。
不安に感じている人もいるかと思います。

どこの会社が自分に仕事のオファーをしてくれるか、
不安に思っているかもしれません。

 

それではみなさんの心配事をまずは解決しましょう。

 

皆さん全員にトヨタでの仕事をプレゼントします。

(拍手と歓声)

ただ、まだ人事部からOKはもらっていないですが、
たぶん大丈夫だと思います。

(笑い)

 

さあ、就職活動に関する悩みは解決したと思いますので

(笑い)

もっと大切な話をしましょう。

 

それは、例えばこの記念すべき瞬間をどのように祝うか。

 

つまり、今夜のパーティーで、どれだけハジけるかです。

(拍手)

そしてもっと重要なのが、
私もパーティーに参加できますか?

(拍手と歓声)

 

ただし、夜更かしはできません。
なぜなら明日は「ゲーム・オブ・スローンズ」の最終回だからです。

(拍手と歓声)

私がバブソン大学の学生だったとき、
自分には勉強以外の時間や生活は考えられませんでした。

 

英語で授業を受けることは本当に大変なことでした。

 

自分の時間はすべて授業のために使い、
集中して取り組んでいました。

 

パーティーに行ったこともありません。
ホッケーの試合にもいきませんでした。

 

寮から教室へ行き、図書館によって、寮に戻り
そしてまた寮から教室、図書館へ、この繰り返しでした。

 

だからバブソンで勉強していた時の私は、
一言でいうと、「つまらない人間」でした。

 

しかし卒業してニューヨークで働き始めると、

 

私はすぐに失った時間を取り戻し、

 

「夜の帝王」となったのです。

(笑いと拍手)

 

私と同じことをする必要はありません。

 

皆さんの顔を見れば、「つまらない人間」ではないと分かります。

 

皆さんはバブソンで、十分に勉強以外の時間や生活も
楽しまれたことでしょうか。

 

今日はみなさんにアドバイスをすることになっています。

 

私から伝えたいことは
「つまらない人間になるのではなく、楽しみましょう」ということです。

 

幸せな人生には何が必要か。

 

喜びをもたらすものは何なのか。
自分自身で見つけだすことが大切です。

私がバブソン生だったころ、
自分で見出した喜びは、「ドーナツ」でした。

(笑い)

アメリカのドーナツがこんなにも素晴らしく、
喜びになるなんて、思いもしませんでした。

 

皆さんも自分だけのドーナツを見つけてください。

(笑いと拍手)

夢中になれるものを見つけたら、
手放さないでください。

 

私は、皆さんが乗り越えなくてはならない山や、対処すべき課題といった、
ありきたりの話をここにしに来たわけではありません。

 

むしろ、前だけを見て、すべてがうまくいくと考えるべきです

 

皆さんが全員が、大成功を収めると思います。

 

でも、その後に、一筋縄ではいかなくなります。

 

なぜなら皆さんは成功するからです。
皆さんは出世しお金を稼ぎます。

でもその仕事を楽しめているでしょうか?

心から没頭できているでしょうか?

 

皆さんのように才能がある人は、

 

ある日目覚めて、自分が現状から抜け出せないよう、
縛らせていることに気付きます。

 

住宅ローンとバブソンを卒業させる必要がある子供が3人。

(笑い)

 

家業を引き継ぐか、外に出るか。

 

皆さんが、心からやりたいことは何か、今こそ、
それを見つけ出すときです。

 

キャリアがはじまったばかりの頃は、一番良い時期です。

 

人生で様々な責任を背負う前であり、
色々なことを試すことができるタイミングだからです。

 

若さの恩恵である自由と時間を使い、
皆さんの幸せを見つけてください。

 

”予想外”のことがあっても恐れないでください。

 

そうした意味で、私はラッキーでした。

 

なぜなら、とても早い段階で、やりたいことが分かっていたからです。

 

少年だったころ、タクシードライバーになりたいと思っていたのです。

(笑い)

 

夢はかないませんでしたが、今はそれに近いことをやれていると思います。

(笑いと拍手)

クルマを運転できますし、常にクルマに囲まれています。

 

ドーナツより大好きなものがあるとしたら、それは車です。

 

私たちは80年以上にわたり、クルマづくりを続けていますが、
トヨタの事業は、織機づくりから始まりました。

私の曽祖父は、自動織機を発明しました。

 

しかし私の祖父である喜一郎が、
織機産業から自動車産業へと会社の転換を行い
今日のトヨタ自動車を創設したのです。

 

私はトヨタを経営する豊田家の三代目です。

 

3代目は苦労を知らないとか、
3代目が会社をつぶすという、ことわざを皆さん聞いたことがあるでしょう。

たぶん、そうならないと願っています。

なんといっても、私はバブソンを卒業したのですから。

私が社長になってすぐに、景気が後退し、東日本大震災も経験しました。

 

リコール問題では、ワシントンの公聴会で証言しなければなりませんでした。

その時、本当にタクシードライバーになっていればよかったと思いました。

(笑いと拍手)

ここバブソンで学んだことを、トヨタで日々実践するという意味では
今のところうまくいっているのかもしれません。

 

私がバブソンで一番叩き込まれたことは、起業家精神です。

トヨタほどの大きな会社でも
スタートアップだと考えるようにしています。

 

皆さんのご家族が何十年も経営されている
ビジネスにとって、大きな課題のひとつは、

 

「必要な時に劇的な変化を起こすことができるか」ということです。

 

いかに物事を客観的に見られるか。

 

感傷的な理由で何かに固執せずにいられるか。

 

織物ではなく、クルマを作るために、
そして次の何かを作るため、リスクを取ることができるか。

 

今、自動車産業もまた、大変革の真っ只中にいます。

 

私でさえ、20年後どのようなクルマが、
走っているのか予測不可能です。

私はバブソンで過ごした日々の中で、
変化から逃げるのではなく、変化を受け入れることを学びました。
皆さんも同じであってほしいと思ってほしい。

私はよく、「豊田の名前が負担にならないか」と聞かれます。

皆さんぐらいの年のころはイエスと答えていたかもしれません。

しかし今、私はこの名前がつくトヨタという会社と、
トヨタを世界中に支えていただいている何十万もの仲間をとても誇りに思っています。

では早送りして、皆さんが成功して、
本当に大好きなことをしているとしましょう。

 

CEOからCEOにアドバイスさせてください。

「しくじらないでください」。

(笑いと拍手)

「当たり前だと思わないでください」。

「正しいことをやりましょう」。

 

「正しいことをすれば、お金はついてきます」。

 

年をとっても、新しいことに挑戦してください。

 

10年前、トヨタの社長になった時に、
マスタードライバーだった方にこう言われました。

 

「運転の仕方も分からない人にああだこうだ言われては困る」。

 

そこで私は、52才でマスタードライバーになるための訓練に挑戦しました。

 

父には止めろと言われましたが、レーシングカーを運転するためではなく、

 

本当の目的は、クルマの正しい運転の仕方を学び、
エンジニアたちとコミュニケーションするためでした。

 

つまり、私がお伝えしたいことは、
皆さんは「常に何か新しいことを学ばなければならない」ということです。

 

何歳になっても同じです。

誰もが生徒になることはできます。

 

生徒というのは、いつだって最高の仕事です。

 

あなたに影響を与える人を見つけてください。

オプラ

 

ヨーダ

 

トム・ブレイディ

 

あなたの両親

 

あなたの友達

 

彼らから、エネルギーをもらいましょう。

 

誰かに刺激を与える人になってください。

 

立派なグローバル市民になってください。

 

環境のこと、この地球のこと、
世界で何が起こっているか、いつも気にかけてください。

 

恰好をつけるのではなく、
温かい人になってください。

 

自分自身のブレない軸を決めてください。

 

トヨタでは、誠実さ、謙虚さ、尊敬といった
価値観を大切にしており、それらをトヨタウェイと呼んでいます。

 

これはトヨタにとっては北極星のようなもので、
私たちを導く光です。

 

皆さん自身を導く光を見つけてください。
その光に導かれて、様々なことを判断してください。

 

世界がより良い場所となるよう、
皆さんが手助けをしてくれるはずです。

 

お集りの皆さま、学生の皆さん。

 

卒業は終わりの日であり、
すべてが始まる日でもあります。

 

日本では、新しい天皇が即位されると、新しい時代がはじまります。
日本の暦は元年として始まるのです。

 

日本では5月1日から新時代が始まりました。

 

各時代には名前があり、今回は令和です。

 

「美しいハーモニー」という意味です。

 

皆さん自身の、新たな時代が始まろうとしています。

 

時計の針は最初に戻り、
皆さんの可能性は無限大です。

 

皆さんの時代が、美しいハーモニーと、成功と、
そしてたくさんのドーナツで満たされていることを願っています。

ご清聴ありがとうございました。

(拍手)

 

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Kotokake 代表 能政夕介

現在はフリーアナウンサーとしてDAZNやスカパー等でスポーツ実況も担当している。
その他にも結婚式、イベントの司会や企業・高校・大学等へコミュニケーションの講師としても活動中。
「話すことが楽しい!」と思える人を増やすために、学生から主婦まで幅広くオンラインや直接指導等を行っている。

【過去の出演歴】
DAZNにてJリーグ中継(J1/J2/J3)、スカパーにて天皇杯やユースの試合等も担当。
その他にもなでしこリーグやアメリカンフットボール・ラグビー・高校野球の実況担当経験もあり。


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